例えるならば世界は角砂糖だ。



「あなたの話を聞かせて」

ずぶ濡れの少女が窓際で言った。

少女は不幸な子供だった。
親を失い家をなくし、親戚に預けられたがそこから逃げ出して来た、世界にそれなりの割合で存在する不幸な子供だ。

そしてそれとは関係なく生き物の命を奪った子供だ。
富と名誉、そんな書き付けがされていそうな家に、知らないルールで生きる親戚の理解出来ない言動。
それで少女は苛立ちのままに小鳥入りの籠を二階から突き落とした。
哀れな鳥は沢山の羽をまき散らして今はどうなったか。

我に返った少女は罪悪感に襲われて震えながら家を飛び出した。

酷い子供だ。しかしどこにでもある話だ。



逃げようのないものから逃げて逃げて、少女は本当の居場所をはみ出てしまった。
例えるならば並んだ角砂糖の中で、一つの角砂糖の一粒の砂糖がその隣の角砂糖にくっ付いてしまったのに似ている。

すっかり迷子になった少女を拾ったのは二人の男だ。
片方は太陽を浴びた白い紙程に『明』で、もう片方は闇の黒い紙程に『暗』だった。
二人の男は少し変わったこの世界でも特別生活無能力であったから迷子の少女を助けた事自体が異常だったのだが、彼等は兎に角少女を拾ってある人物の所へと届けた。

それこそが今、少女と話している『人を食った賢者』なのだ。
『人を食った賢者』は呼び名だけあって殆ど多くの生き物が関わろうとしない。
そんな人物に子供を預けるなんて普通ならばとんでもない話かも知れないが、二人の男が話しかけられるのは賢者位しかいなかったのだから仕方がない。
少女は少女で、生き物を殺した罰なのだと勝手に納得してしまっている。


話しかけられた賢者は笑うばかりで何も言わなかった。
見た雰囲気にもその顔にも、呼び名に相応しくなく穏やかで少女は少しだけ不思議に思った。

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 あるよく晴れた日の午前にも午後にも混ぜてもらえない可哀想な時間。
賢者の家の庭先で少女は気味の悪い男に出会った。
少女を助けた二人の男にしても、少女を棲まわす賢者にしても大概気味の良い人間ではないが、それと比べてもなお気味が悪いと思えるような男だ。

男は頭の耳から上をすっぽりと緑色の何かに覆われていて、動物とは違う生臭さを纏っていた。
痩せていたし身長も低かったので、半裸でなければ少女は男と言い切れなかったかもしれない。

「あなた、誰?」

男は変な音を漏らすばかりで返事をしなかった。
いくら子供と言っても、これだけ怪しい人間とでは顔をいつまでも合わせていられまい。
少女は怯えて家の中に戻ろうとした。

しかし、そこで丁度賢者が扉を開けて顔を出す。

「ねぇ、誰か来たの」
「ああ、成る程」

賢者は固くなった少女の顔を見て笑った。

「ィアンに取り憑かれているだけだから。怪しい上に危ないけれども逃げ惑う程のものではない」
「言っている事が矛盾しているわ」
「そうかな。じゃあ君はきっと、爪と歯の鋭い生き物と出会ったらそれだけで大騒ぎをして回るんだろうね」

そんな言い草に少女は少しだけ傷ついた。

「ほら、放っておけば話し出すから気を付けて聞いてごらん。こちらの話は聞かないけども」
「それじゃあ会話が成り立たないじゃない」

そうこうする内に怪しい男は漏らしていた音を声に変える。

「AとBというよく似た性質を持つ物を比べてみた時、その長所短所は同じだけ挙げられるが、そうするとAとBは違う物であり選択される権利を持ちながらもほぼ同じ物としてその差を大して意識される事もなく、結局は詰まらない理由で選ばれるか選ばれないという事になる。ではまるで違う物になればいいのかと言えばそうではない。AとBがかけ離れた存在であった場合、選択する側の都合にのみよって判断されてしまうのでAとBの権利は薄くなってしまう」
「昨日食べた今日食べなかった昨日食べなかった今日食べた」
「喜怒哀楽はエゴとすると無感情無感動こそが最も平等であるのかもしれない」
「魚の刺さった木の枝の右から三番目の木の実はまずい」

「これに何の意味があるの」
「何の意味もないという意味があるんじゃないかな」

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 ィアンに取り憑かれた男との邂逅後、賢者に頼まれて少女はお使いへ行く事になった。
賢者の家は森の中にある。そして使い先は森の向こうにある。
少女は明るく不気味な森を怯える事なくひた歩いた。

途中、少女は彼女を拾った二人の男と出会った。

「こんにちは」
「やあ、僕の初めての子供。ご機嫌如何」
「一人でこんな所を歩いているなんて大変だ、なんて事だ。やはりあの人を食った賢者に預けるのは間違いだった」
「心配し過ぎじゃあないかね。子供にだって自由はあるさ」
「それはそうだ。しかし子供よ、ここを歩いているのは自分の意志か?」
「お使いを頼まれたの」
「ほらみろ、やはり間違いだったのだ」
「お使いに行くと決めたのは私よ」

明暗の男達は姿から分かりにくいものの、少女を心配しているようで暫く二人は彼女について歩いた。

「可愛い子供。君は将来誰に似るのかな?」
「僕だろう」
「いや僕だろう」
「私は私の親に似ると思う」
「賢者の所にいるから賢者に似てしまうかもしれない」
「ああ、それは嫌だね」
「でもそれはあり得る事よ」

「魚の刺さった木の枝の右から三番目の木の実はまずいって本当?」
「そんな事を言ったのは誰だ?」
「さっき変な人に会ったの?」
「それは賢者の事かね?」
「賢者の事でもあなた達の事でもないの。頭が緑の気味が悪い人だった」
「ィアンに取り憑かれた人間か?」
「そんな事を言っていたかも知れない」
「なんて事だ!あんな生き物に可愛い子供を会わせるとは!」
「此処にいればそういう事もあるね」
「あれは一体誰なの?」
「さぁ、誰だか。あのィアンというものはいつからだかここに発生するようになって、あれを被った物が常に一人居るようになったとか」
「言っている事を気にする必要はない。摂り憑かれでもしたら大変だ」
「そもそも魚は水の中にいるものさ」

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 「あちらの世界は眩し過ぎる」
「あちらの世界は光が足りない」

森を抜ける所で、二人の男はそんな事を言って離れていった。
少女はまた一人になった。

森の向こうには灰色の道が続いていた。
煤けた草花と項垂れた樹木があちこちに見える。あまり美しくないが、そんなものだ。

灰色の風景の何処からか灰色の煉瓦道が現れ少しずつ人間染みたものが増えていく。
人の姿も遠目にぱらぱらと見え始め、ぼんやり見えていた建て物らしきものが二つ三つ四つと並んだ民家だと分かるようにもなった。

「もしもし、お嬢さん」

そんな所で、再び少女は声を掛けられる。
今度はどんな変なものが現れたのか、すっかり変人に慣れてしまった少女は振り返った。

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 少女の目に映ったのは一人の少女だった。
年はいくつか上だろう。子供の柔らかさを残す少女に比べると背は高く手足もひょろりとしていて、少年のようでもある。
ごくごく普通に見える少女は少女に笑みを向けて二三歩近付く。触れ合う事の出来る距離で少女は少女の顔を覗き込んだ。

「お嬢さん、君の名前は?」
「自己紹介は自分からするものでしょう」
「うん、でも紹介する程の自己がないんだ」
「そんなのは変」
「そうだね。じゃあお手本のつもりでやってみせてくれないかい?」
「分かった、いいわ」
「じゃあ君の名前は?」

そう言われて少女は戸惑った。

「名前はないの」
「それは何故?」
「私はここの人間じゃないから」
「ここじゃない所の名前はあったんじゃない?」
「知らないわ」
「そう。でもそれじゃあわたしと変わらないね」
「何故?」
「だって君は自分を紹介出来ない」
「名前以外なら言えるわ」
「名前以外?そんなものはどうとでもなる」
「そんな事はない」
「そうかな?」
「そうよ」

少女は少しだけ笑う少女が恐くなった。
恐い、とは違うのかも知れない。彼女の笑顔は何となく、足の下がなくなるような感じにさせる。

「年齢は変わっていくね」
「でもどの年でも私は私」
「それなら年は紹介する必要がないのかな」
「性別は?私は女」
「性別って言うのはね、まず変えようとして変えられないものではない。次に精神の性別と肉体の性別があって、それが明らかに違う人もいれば少しだけ違うって人もいる。中には精神の性別があやふやな人も肉体の性別がまぜこぜの人もいる。それ以外に、何を性と言うかというのも人によって違ったりする。少し難しい話だけど分かるかなぁ」
「分からない」
「そうだね」
「じゃあ血液型とか、誕生日とか」
「それを説明して何になるの?」
「……分からない」
「その通り」
「趣味は?特技は?」
「それこそ一番変わるものだろう。嫌いなものだってやっていれば得意になったりする」

少女が知っている自己紹介は全部少女に否定されてしまって、もう言える事がなくなってしまった。
少女は悲しくなった。
まるで自分は自分ではないのだと言われたような気分だ。
俯く少女を見て、何を思ったのか。
笑う少女は少女に背中を向け、三つ飛ばしに煉瓦を踏んで歩いた。ぽん、ぽんと跳ねる背中はやはりひょろっとしている。

「名前は大事なんだ。名前がないから自己紹介が出来ないし、名前を言わないから簡単に消えてしまえる」

離れる背中の向こうで独り言染みた言葉が零れている。少女はそれを拾った。

「あなた、消えちゃうの?」

先を行く少女が振り返った。先程までとは違う笑顔になっていた。

「消えるつもりはないよ。でも消えてしまうかもしれない」

足の下が崩れ去ったような危うい感じが強くなる。少女はそれでも少女の言葉を必死に拾って、新しい言葉を少女に投げ返した。

「じゃあ、名前をつけたらどう?」
「名前をつけるのかい?」
「あなたの名前は私がつけてあげる」
「そう」
「だからそのお礼にあなたは私に名前をつけて、それを頂戴」


何が、何故か、は分からないが少女の言葉はきっと正しかった。
少女の笑顔を見ても、もう足の下がぐらつく事はなかった。

そして少女に新しい名前がついた。

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 少女の新しい名前はサイになった。
色のある森からやって来たから、と年上の少女は言う。
代わりに少女が彼女につけた名前はコクハクだ。
灰色の道で出会ったから、と伝えたけれども本当は自分を拾ってくれた男達の名前からも取っている。

サイとコクハクは並んで灰色の道を歩いた。
コクハクはサイと手を繋ぎたがったのでそうして歩いた。
コクハクと出会った場所から建て物が見えていたのでもう少しの距離しかないと思っていたのに、案外それは遠かった。
そのせいで繋いだ手が温くなってしまい、サイは何度も手を解きたくなった。


やっと建て物がすぐそこになり、目の前になり、通り越してやっとサイは賢者の言っていた目的の場所に辿り着いた。

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 そこは、今芝居が始まるという舞台程に仰々しい広場だった。
灰色の煉瓦道から真っ直ぐ行った先の円状の終点。四方を建て物に囲まれているせいで、上を見上げると空も丸く切り取られている。
円の内側は四本の柱が正方形に切り取っていて、まるで選ばれた人間だけが入れる場所のような雰囲気がある。
そして全ての中心には小さく頼りない、何の為にあるのか分からない噴水めいたオブジェが経っていた。

「賢者が言ったのはこれ?」
「そうだ」

思わず立ち止ったサイの手をコクハクが引いて、オブジェのすぐそこまで連れて行く。
柱の内側に入る瞬間、サイは少しだけドキリとしたのだが、コクハクは何も感じなかったらしい。

「入れ物は持ってるかい?」
「言われた物は失くしてないけど、何を入れるの?」
「見てごらん」

サイがそっとオブジェの中を覗き込むと、そこにはあまり綺麗には見えない水溜りとそこに浮かぶ緑色の塊があった。

「何これ」
「何だろうね。でも大切にはされているよ」
「何故?」
「町には灰色しかないから」

サイはコクハクの顔を見て、その後緑色の塊にまた目を戻す。
水が綺麗に見えないのはオブジェに灰色っぽい汚れが溜まっているかららしい。湧き水のようにちょろちょろと飛び上がる水自体は透明で、緑色の塊はそれに揺らがされるお陰で被った灰色が振り落とされている。

二人の男の明の方がが「暗い」と言い、暗の方が「明るい」と言った灰色の町には色がない。
そこに住むコクハクは名前を持たなかったし、時々みかける人には生きた気配がない。
そんな中で唯一色がついていて、生き物らしくて、だからこそ名前はなくても名前と変わらなくて消えそうにないもの。正体は分からなくても大切にされるのは当然かも知れない。
名前をつけた時と同じ位嬉しそうなコクハクに、サイはそんな事を思った。

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 サイが見ている前で、コクハクは水の中に手を入れた。
彼女が緑色の塊を掌に乗せてそっと転がすと、塊が解れて小さな粒が残る。
掌から零れた緑は暫くもやもやとしていたが水流によってまた一つの所に戻り塊となった。

「大切なのに、そんな事をしていいの?」
「駄目だったら、君はどうするんだい?」
「分かんないわ」
「君はおかしな人だね」
「あなたに言われたくない」
「そうかな」

コクハクが差し出した緑の粒をサイは瓶にしまう。
賢者から渡されたそれは乳白色で、砂糖入れに使う物によく似ていた。

「これでおつかいはおしまい」
「帰るんだね」
「そうよ」
「寂しい」
「一緒に来たら?」
「森では暮らせないよ」
「私はあそこにいるのに?」
「君は特別なんだ」
「そう?」
「そうだよ」

濡れたままの手がサイの手を取った。
先程までは何となく放して欲しかった筈の手が、何故か心地よくて離れ難い。
悩んだサイは、もう少しだけコクハクと一緒にいる事にした。
おつかい途中の寄り道はよくある事だからきっと悪いとは言われないだろう。

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 サイは、コクハクに連れられて灰色の煉瓦道を外れた。
建て物の隙間にある踏み固められた土の道を行く。大した距離ではなく、これならすぐに戻れるだろうという位の所でコクハクは足を止めた。

そこは干からびた草ばかりが所々と生えただけのだだっ広い場所だった。
風が吹くとかさかさ物悲しい音がする。
誰もいない。何もない。
面白くもない、と文句を言おうとすればコクハクがそれを人差し指一つで留めた。

「よく見ていて」

言われるがままにサイはコクハクに倣ってじっと待つ。
すると不信感が高まり再びコクハクに苦情を出そうとした頃になって、漸く気配が動いた。


それは奇妙な光景だった。

空から何かが舞い降りて来る。白でもない、黒でもない。明るくもなければ暗くもない。
いい加減見慣れた色の何かは、ぱたぱたと巡るような動きで二人の少女から中々離れた所にどんどん着地していき、全員揃うと各々で動き始めた。
それはよく統率の取れたもので、あちらで何かをしていればあちらに集まり、こちらが終了すれば散っていく。
そうしてあっという間に幕とロープで小さなテントを作り上げると、近くに観客もいないまま曲芸が始まった。

ぴちぴちとBGMを奏でるものがあり、それに合わせて軽やかに動くのは座長のつもりだろうか、帽子を被った一羽。
銜えた棒を振れば一羽一羽と違うものが出て来て綱渡りや輪くぐり、ポールダンスを行う。
頬の部分を丸く黒に染めているのはピエロのつもりだろうか。滑稽な仕草で首を揺らしたり下手な歌を歌っている。

「小鳥のサーカスだ」

嬉しそうにコクハクが囁いた。
しかしサイは、身を固くする。

何故なら彼女は酷い子供だからだ。

感情で身勝手に小鳥を傷付け逃げ出した、罪悪感さえも忘れようとしていた。自分の世界から抜け出して、こんな所でそれなりに楽しく暮らしている。
それを目の前の一生懸命な鳥達がそれを思い出させる。

サイは立ち上がった。
そして驚いた鳥達が羽ばたき、コクハクが不思議そうに手を取ろうとしているのを振り払って駆け出した。

罪悪感に耐えられなかった?
いいやそれ以上に彼女はコクハクに自分のした事を知られたくなかったのだ。

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 サイは走った。
煉瓦道に戻り灰色から逃げて逃げて、元の森にまで戻ってしまった。

もう新しく貰った「サイ」という名前も相応しくないだろう。

少女は灰色の中で一人だけ違う事と自分より年上の子供に好かれる事、名前をつけたりつけられたりする楽しさと特別感の優越に浸っていた。
なまじ少女を拾った二人の男が彼女を可愛がり、賢者が住まわせてくれたから余計に勘違いしてしまったのだ。

この子供ははただの、酷くて自分勝手で、どこにでもいる少女でしかない。

幸せになれない訳ではない。でも幸せが勝手に寄って来るような存在にはなり得ない。
そんな事は居場所を失った時に十分理解していた筈なのに、気付けば物語の主人公か何かの様にふるまっている。
少女は自分が恥ずかしかった。
そんな姿を見られた事も、そんな自分の手を取ろうとしたコクハクの存在も、出来ればなかった事にしたいと思った。
けれど、それを願いはしなかった。小鳥を落とした時に懲りていた。


幸か不幸か、行きに森をうろついていた二人の男と再び出会う事はなかった。
このままどこかへ行ってしまいたい気もしたが、お使いを頼まれた身である事を思い出せばこれ以上の我儘は許されるべきではないと思い少女はとぼとぼと来た道を戻る。
そうして賢者の家の扉を叩いた。

「やあおかえり」

家の中では賢者が少女を待っていて、差し出した緑の粒入りの瓶を大切そうに受け取った。
時に冷たく突き放した様な物言いをする賢者だがこの日は何故か少女に優しく、それは彼女が眠る時まで続いたのだった。

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