未来。


羽や翼を持つ生き物が発生した。
その後、人間が技術でもって空を飛び出した。


人間が空を飛ぶ事により、まず先に空を目指したのは犬であった。
彼等は二つついた大きな耳を翼とし、太い尾をバランスとして空を飛ぶ。そして人を追って行くのである。
次に空を飛んだのは猫であった。
猫は柔らかい体を利用して風を捉え空を飛んだ。気儘に空を泳ぐ姿はまるで元からそういう生き物であったかのようでさえある。

愛玩動物としてポピュラーである彼等が飛行能力を獲得した時、人々は驚いた。そして次には喜んだ。それはそうだ、愛玩動物が更に愛らしい姿を見せてくれるのであるから。
何処の飛行機が犬連れで飛んだ、迷子になったペットが空を飛んで戻ってきた、野良猫が集まる集落では何時頃一斉に猫が飛び立つ姿を見物出来るらしい。
そんなニュースが流れて、その内飛ぶ事が当たり前になってくると空を飛ばせる為の便利グッズ等が販売されるようになったり、飛ぶ事に特化したコンテストが設けられたりもした。
血統の優劣を競うコンクールでさえ飛行姿勢及び速度とチェック項目に加えられたらしい。


だが、すぐに問題を見付けて結局人間が頭を痛める事になった。


犬が飼い主を追って飛ぶ。
玄関を飛び出すどころでは無い。また大型犬が上から降ってこようものなら怪我をするに決まっている。うっかり逸れた犬が高速道路を渡り川を渡れば、車も船も急停止した。
しつけのなっていない犬が小動物をどこまでも追いかけて噛み殺したという事もあったが、同じ事を子供に対して起こさないとは誰も言えない。
マーキング場所に選ばれた屋根の下の住人達は泣き寝入りである。
猫が勝手に空を飛ぶ。
恋の季節を迎えれば空中戦。そうで無くても縦横無尽で草木を折られる。飼い主を嫌って家出をした猫は数知れず、気付けば野良猫が増える。増えた野良猫の行動範囲は広く果てしない。
追い掛けようにも猫のすばしっこさに人間は翻弄されるばかりであった。

そもそも元から空を飛んでいた鳥と人とが分かり合えていないのである。
鳥が病を運ぶ問題、糞や鳴き声の問題、人間と鳥の生活範囲がぶつかって起きている問題。
これらでさえ鳥を追い払う様なやり口でしか解決する事が出来ていない中、空を飛ぶようになっても犬は犬であり猫は猫である。お願いして習性を変えてもらう訳にはいかない。
野生の鳥より愛玩動物は人間に身近な存在である。だから追い払う事も簡単ではない。
今飼われているペットや飼い主にルールを与えてもそれより以前のものを止める効力にはならない。

尤も、厳罰化が進んだ事でどうしようもない飼い主が減ったという点だけは評価出来たのだが。


犬猫の為に出来た機関は数多く、犬猫の話し合いだけで終わった会議は数知れない。
それでも問題は解決されない。

今日も散歩中の犬が浮き、猫が木を蹴って滑空する。
人はただ網と縄とを持ってそれに従うばかりである。

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